卓上ゲーム製作備忘録:第1回「面白さと遊びにくさと非競技性が同居しているゲームに直面」

先日ゲームマーケット春に一般参加していると久しぶりにY崎氏に出会った。

Y崎氏とはロールロールステーションに初めて行ったときから

知っている方で折原さんの友人でゲーム巧者であり、

同人卓上ゲームの目利きが優れている方であると認識している。

そんな方がとあるゲームの説明を熱心に受けていた。

gamemarket.jp

Y崎さんが熱心に説明を聞くのだから相当なゲームに違いないと思い

同席させていただくことに。

ゲームシステムとしてはプレイヤー毎に(全員勇者と銘打たれているが実質的に)非対称のクラスを選択し

ダンジョンを探索してアイテムやモンスターやイベントと出会い、

勝利ポイントを一定数稼いでいち早く入り口に戻ったものが勝利のゲームである。

ダンジョンはざっくりいうとお邪魔者方式で作られる。

モンスターメーカーのような抽象化して移動距離のみで表現する方式ではなく!)

手番毎に強制的にダンジョンカードを引き、通路がつながるように配置していく。

(これはお邪魔者よりは緩く最低一か所つながってればよい)

配置した時にアイテム、モンスター、イベントのアイコンが描かれてたらば

対応する山札を引いて同じ場所へ非公開で配置する。

また、途中でレベルアップできれば、自身が強化される上に、対応するレベルのダンジョン、各種カードを引くことができるようになる。

まずは自分のクラスを選ぶのだがY崎さんがモンスターを3体まで配下にできる勇者、

作者様は先制攻撃ができる射手の勇者、私は踊り子の勇者を選んだ。

 

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踊り子の勇者はじゃんけんの勝敗結果によって戦闘を無視してモンスターを配下に加えたり戦闘を回避したりできるクラスである。基本性能は低い。

さてこのゲームなのだが、なんとカード(と説明書)しか内容物に含まれていないゲームである。

ゲーム開始早々作者の方が「遊びやすくなるので」とプレイヤートークンを取り出す。

ボードゲームにはプレイヤー同士の記憶力が完璧ならトークンはいらないはず、という要素は確かにある。

1ターン程度の記憶保持が前提、というゲームならそれなりに多く存在する。

ドミニオンの密輸人など)

記憶力が完璧なら勝利点トラックもいらない。

いやよく考えたら全部いらないんじゃないかという気がしてきたぞ;

自分が必須だと思っていたものを「あれば便利」程度にしか認識していない作者。

因みにプレイヤーの現レベルを記録するものもない。これは試遊時も記憶だよりだった。

ここで私はヒカルの碁の一色碁を思い出す。

あれは主人公の能力の高さを示すためのヴァリアントだったが

あれを陣営の書かれた裏面を用意するなどの手直しをせずそのまま商品として出して

「これは不便ではなくゲーム性だ。これを不便と感じるということは君の能力が低いと認めていることだ」

と言われたらどう感じるだろうか。

 

 

ゲームが開始されモンスターとの戦闘が始まる。

インストの時にボケーっと聞いていたが

実際目の当たりにするとちょっと奇妙だった。

このゲームの戦闘はRPGに近い方式で行われるのである。

モンスターとプレイヤーは各自、体力、攻撃力、防御力、素早さ、

の能力値を持ち、

素早い方から攻撃を開始(同値なら同時攻撃になる…)し、相手の体力に自分の攻撃力-相手の防御力

のダメージ(0以下の場合1に強制補正される)を体力に与える。

次に相手の方が同じ処理をする。

これを繰り返して最後まで生き残っていた方が勝ち。

確かに勝敗は決するのだが、勝利判定の処理がカードゲームとしては非常に煩雑に感じた。

場合によっては1対多、多対多となる場合もある。

もちろんライフを記録するトークンのようなものはない。

Y崎さんはとても頭の回転が速い方なので、

「こっちが先に殴って、カン、カン、カン…でこっちの勝ち」という風に

剣戟の音を口ずさむ軽いロールプレイを交えつつ勝敗を解説してくれたが、

こういうのをシステムで必要最小の部分だけ残してプレイアビリティを高めつつ

上手にオミットすることこそがアナログゲームデザインではないのか?

 

ダンジョンの構築も机を圧迫する。

また、このプレイングメンバーではなかったが

配置しようにも完全に通路がふさがっているという作者想定外の状況も発生した。

(一応好きな場所につなげてよいということになった)

 

さてそんなこんなでY崎さんが規定ポイントを貯め、

いよいよ入り口へ、というエンドゲーム状態になった。

と、ここで私の手番でレベル3モンスターの山札から魔王が登場する。

このゲームは実は魔王を倒すことによっても勝利できるのだ。

そして、踊り子のじゃんけん勝利で配下におく能力は

魔王相手には勝利判定となるのだ。じゃんけんしかあるまい。

勝利。勝者は私。

他人の時間をかけて積み上げたものをじゃんけん1回ちゃぶ台返し

一見どうみても無茶苦茶だがY崎さんは悔しそうかというとそうでもなかった。

これには二通りの解釈がある。

・イラスト、デザイン、設定などフレイバーが十分に魅力的だったので受け入れられた。

・踊り子はもともと弱いのでけしてゲームバランスを崩壊させているわけではなく

むしろこういう勝ち筋を慎重に狙うべきキャラとしてデザインされている。

 

結局その後もう一人加えてもう一度プレイしたのだが、

私以外ゲームデザインに口を出す者はいなかった。

いや、それでももう一度プレイした、というのが重要なのだ。

 

結論として、イラストとフレイバーは購入においてシステムやプレイアビリティより強い位置にあると考える。